HP更新案内と徒然文。管理者の萌えの叫び場。
2009.03.05,Thu
今日は啓蟄だなーということで、なんとなく浮かんだ殺一行小話。
ほのぼの過ぎるけど、時期的に対奈落最終決戦手前だ。
折込みからどうぞ。
ほのぼの過ぎるけど、時期的に対奈落最終決戦手前だ。
折込みからどうぞ。
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「ふぎゅる。」
奇怪な音が、一行の先頭に立つ主の方から聞こえてきた。
勿論そんな情けない呻き声などを、かの自尊心高い殺生丸が発するはずもなく。
初めから何も聞こえてないといった風情で佇むその足元には、体を半分ほども地面にめり込ませた一匹の緑色の小妖怪。
足を上げた理由などもうすっぱり忘れているに違いない。踏み付けた処遇などもすぐにすっぱりさっぱり忘れるに違いない。……だってやっぱり犬だし。
奇怪な声を上げて土にめり込んだ当の邪見は、懲りずにも内心そのようなことを考えていたが、すこぶる勘の鋭い主の気がざわりと不穏に波打ったと察知するや、素早く自ら顔も土にめり込ませて無心に努めた。
「邪見さま、大丈夫?」
双頭竜に跨るりんが身を乗り出すと、背面しか見えない邪見に一応、問うてみる。
りんが薄情なわけではないし、邪見を蔑ろにしているわけでもない。
単に、今の光景に慣れてしまっているだけだ。
りんよりは見慣れていないはずの琥珀も、竜の脇に立ってその手綱を握るままに、どうしようかと迷いつつ、一応は邪見に同情の目を向けている。
「放っておけ」
声を掛けるのみならず、手助けするつもりか竜の背からりんが降りようとするとその前に、投げ遣り気味の声が届いた。
そして殺生丸はさっさと歩き出す。また賢い双頭竜も、手綱取る人間の小僧が動かずとも真の主に従ってその太い四肢をのそりと動かした。
「…………」
埋まったままの邪見の頭上を竜の足が越えていく。踏み潰されなかったのは賢い竜が気を配ってくれたのか、それとも単に天の配剤だったのだろうか。
ずしんと、身体のすぐ側に振動を受けそして遠ざかっていった。
(ワシ、本当に置いていかれるんじゃろか……)
強大な妖怪の気配も妖獣の気配も、二つの人間の気配すらも離れてしまい、やっぱりいつものこととは云えども邪見はいじけた気分になる。
(どーせどーせ、ワシなんて)
愚図愚図と土にうつ伏せたままでぼやいている間に、りんが高い竜の背からひらりと飛び降りていた。
「邪見さま起きるの手伝ってくるね」
邪見の耳にもそんな言葉がはっきり聞こえた。そして次第に近づいて来る軽やかに跳ねる足音も。
邪見が突っ伏したままの頭のすぐ先で、立ち止まった足音と気配にも反応を見せずにいると、頭上から楽しそうにも聞こえる高い囀りが降ってくる。
「邪見さま、土の中から出てきたばかりの蛙みたい」
「誰が蛙じゃっ!」
先に気遣わんかいと、いじけていたのも忘れ反射的に顔を上げ、覗き込んでくる人間の小娘に毒づいた。
間近で異形の眼で睨まれてもりんは全く動じない。それどころかへにゃと笑いかけてくる。
「えへへ」
悪意の欠片もない笑顔を向けられれば、小妖怪の毒気も抜かれるというもの。
「ふんっ!ほれ、早う手を貸さんかっ」
「はあい」
三本の指だけで作られる手を伸ばせば、野暮らしで健やかに色付く肌の五本指の手が躊躇いなく握り締めてくる。
小さな身体がえいと力を込めて腕を引いた時には、巨体を揺らす妖竜とその手綱を持つ少年までもが、半ば引き摺られるようにして戻ってきた。
邪見が柔らかい土の窪みから引っ張り上げられ立ち上がる。その弾みで今度はりんがしりもちをつく。
「わっ」
「りんっ」
「りん、大丈夫かい?」
邪見と琥珀が交互に問い掛け、妖竜はりんの身を案じるようにその二つの頭を垂れてきた。
「うん。平気」
自力でひょいと立ち上がり、尻についた土を払ってりんはまた笑う。
そして、にんまりと。少し質の違う笑みを浮かべたかと思うと途端、りんが一人駆け出した。
「いっちばーんっ!」
「なっ!」
走る先は云うまでもなく、一行の主の下。
茶番に全く加わりもしないけれども、進んだ先で殺生丸は立ち止まっていた。
言葉にも従わず、歩みにも従わず。
全く以って不肖の追随者ではあるが、妖のものである邪見と阿吽はともかく、人間の服従など初めから望んでもいない。
特にりんに関しては、萎縮することなく自由に振舞う様を良しと思うところもある。
必ず己が下に帰り来るからこその許す自由だと、走り寄る気配を背に殺生丸は胸の内で密かに宣告する。
間も無く名を呼ぶ高い声が響く。戻り来た気配と匂いを受け、視線巡らすこともなく、奇妙な一行の主は再び歩き始めていた。
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冬眠してた蛙が土の中から出てくる姿と邪見の姿が被りましたので。
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